こんにちは、まるけーです。
Twitterで紹介をしていただいたおかげでアクセスが増えました。このブログは私が設計などで行き詰まったときに、多数の人力飛行機に関するブログに助けられた恩返しの意味合いも大きいです。このブログがこの先の人力飛行機に携わる後輩たちの一助となれば幸いです。
さて、これまで書いた記事を読んだんですが「数式だらけで読みづらい。論文かよ。」と自分で気づいたので、今回は数式をできるだけ出さずに書いていきたいと思います。今度は文字だらけになりそう...内容としては、桁設計について書きたいと思います。
注意:この記事に従い事故などが生じても責任は取りません
全体的な話
外注するか自作するかでかなり流れが変わると思いますが、自作はしたことがないので外注をする前提で書いていきたいと思います。また、新参でさっぱりわからないチームを対象にわかりやすく書いていこうと思います。
さて、大まかに桁設計を始めるにあたって問題になる点を挙げていくと、
1.設計はどうやってするのか
2.設計にプリプレグ物性値が必要だがどうやって取得すればいいか
3.どうやって発注するのか
4.出来上がった桁をどうやって試験すればいいか
かなり大雑把にまとめましたが、だいたいこれくらいでしょう。それでは、それぞれについて詳しく解説していきます。
設計はどうやってするのか
設計と言っても剛性設計と強度設計の二種類あり、この前解説した記事は剛性設計に関して書いたものです。記事を読んでいただければわかると思いますが、剛性設計は比較的容易にすることができます。しかしながら問題は強度設計で、考えなければいけないことが多く理論的にも難しいです。
まず純粋に破壊強度則を適用しようとしても、例えばTsai-Wu則では繊維方向引張強度及び圧縮強度と繊維直角方向引張強度及び圧縮強度そして繊維方向せん断強度の値が必要となり、これらを実験で求めるのは非常に困難です。また、人力飛行機の桁は薄く長い円筒であることが多く、座屈が生じやすく座屈も考えなければいけません。特にワイヤの使用を考えると圧縮荷重が生じることから座屈荷重の計算は必須です。
桁の破壊試験の結果から許容表面ひずみを基準に設計する方法(使用するプリプレグによるが2000με~3000με)もありますが、個人的には補助的に使うべきと思います。また、桁の破壊試験はお金も時間もかなり掛かるので新参のチームには何回もするのは厳しいです。
さらに、複合材料は初期不整(層間剥離、形状誤差など)の影響が強く出るため理論的に出した強度に対して修正が必要となります。解説記事は今度書こうと思いますが、座屈に対してNASAが初期不整を考慮した低減係数\(^{1)}\)を実験的に求めているので、座屈を破壊基準にするのがおすすめです。
さて、設計プログラムが問題なくできたとしても自由に設計できるわけではありません。まず、発注先が保有しているマンドレル(型みたいなもの)に合わせて内径と長さが制約されます。したがって、主翼桁の場合は複数の径の異なるパイプの継ぎ合わせで構成されるので組み合わせは必然的に少なくなります。言うまでもありませんが、継芯を入れる場合は更に制約されます。
最後に個人的にかなり気を使った方がいいと思うことは、下の図のような「かんざし」の材料です。鳥コン会場の琵琶湖は気温が高く、直射日光が桁に当たると触れなくなるほど高温になります。もしここに熱膨張率の大きい素材を使うと間違いなく抜けなくなります。実際に抜けなくなってコンビニで氷を買って冷ましました。あと光造形の3Dプリンタの使用を考えたこともありましたが、熱を加えるとすぐ軟化してしまったのでおすすめはしません。ちなみに、発注時にかんざし付きで制作してもらうこともできますがお値段は高くなります。
プリプレグ物性値の取得法
剛性設計と強度設計どちらにもプリプレグの物性値は必須です。一番簡単なのはプリプレグを取り寄せ自分たちで引張試験を行うことですが、桁を外注するにしてもメーカーで取り扱っているプリプレグは数多くあり、すべてを取り寄せ引張試験するのは困難です。そこで、メーカーが公表しているデータシートから物性値を計算して大体の値を把握してから使用するプリプレグを選定するのが良いでしょう。データシートからの物性値の計算はこれを読んでください。
必要な物性値は0°,45°,90°のヤング率と0°のポアソン比です。他の値たとえば、せん断弾性係数は0°,45°,90°のヤング率と0°のポアソン比がわかれば理論的に計算できるので問題ありません。試験片形状などはJAXAの複合材データーベースなどを参考にすると良いでしょう。
ちなみに繊維メーカーから直接購入する際はロットサイズの制約があるので必要以上に買う必要が出てくるかもしれません。親切な会社は融通を効かせてくれますが...プリプレグを保管する際は冷凍庫に入れなければすぐに使えなくなってしまうので気をつけましょう。霜取り機能がないと掃除が大変...
発注の仕方
S社以外に人力飛行機の桁製作を受け付けている企業があるか知りませんが、そんなに形式は変わらないでしょう。実際に発注する際は相手方の担当者の方にわからないことは聞くようにしましょう。
まずは、お金の話からしたいと思います。さすがに発注したときの具体的な金額などは書けないのでご了承ください。プリプレグのお値段は1mあたり5000円~10000円で主翼桁と胴体桁を作るとすると100m前後プリプレグが必要となります。ここに製作費用と運送料がかかり、だいたい100万円前後のお金がかかります。
下の図はテキトーに作った物干し竿らしきものの継芯の例です。このように、使用するプリプレグと内側からそれぞれどの角度で何枚積層するかがわかれば問題ないです。最後の部分は切削と書いてありますが、発注先が現物合わせで調整してくれるはずなんで別に削ることがわかれば研磨だろうが切削だろうと大丈夫なはずです。
これで見積もりをお願いすると、製作上無理な構成になっていると修正などをお願いされるので、その都度修正して何回もやり取りをしましょう。発注したらだいたい3ヶ月くらいで桁が届きます。
桁試験
さて、桁が届いたら継芯部分を接着して桁試験です。ここで言う桁試験は飛行状況と同等またはそれ以上の荷重を加え、安全性を確認する作業です。年に1回は必ず行う作業で、非常にめんどくさい試験です。クレーンもしくは巨大な三脚?に桁を設置し、水を入れたペットボトルをたくさん吊るして行います。リブの間隔と同じくらいで吊るせば大丈夫です。掛ける荷重は以下のように計算します。
$$ペットボトル重量=揚力-二次部材重量-2\times桁の自重$$
桁の自重は二倍して引くのを忘れると、最悪へし折れます。このミスはよくやってしまうので気をつけましょう。揚力分布は積分するなりして計算し、ペットボトルにみんなで水を入れて吊るしましょう。レーザー距離計などを使って桁のたわみ分布を測ると理論値との比較ができるので測りましょう。
まとめ
今回は桁設計の流れを簡単に説明しました。本来なら更に安全率の決め方なども書く必要があるかもしれませんが、製作精度などによって変わってくるので書きません。実際に設計製作を行う際にはいろいろとわからない部分が出てくるともいますが、交流会などに参加して他チームの話を聞いてみるといいでしょう。桁設計はパイロットの命にかかわる重要な仕事ですから、しっかり設計の検証を行いましょう。
資料
1)Buckling of Thin-Walled Circular Cylinders, NASA SP-8007 (1968)