留年ポンコツまるけーのブログ

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複合材の微視的力学

みなさんこんにちは、まるけーです。
前回の更新では等価剛性の導出をしましたが、今回は繊維強化複合材料の微視的観点から各種弾性係数を導きたいと思います。
話の順序逆じゃねーか」とか突っ込まないでくださいね

複合材の微視的力学

ここではTsai\(^{1)}\)により提唱されたc(contiguity factor)を用いた式に対して、cを繊維の体積含有率の関数とみなした植村ら\(^{2)}\)の式を紹介します。なお、繊維と母材に異方性は無いとします。

まず、文字の定義をします。

$$E_{f}=繊維の縦弾性係数\ ,E_{m}=母材の縦弾性係数\\ V_{f}=\frac{繊維の体積}{複合材の全体積}\ ,V_{m}=\frac{母材の体積}{複合材の全体積}$$

このような形で下添字f,mで繊維と母材の物性値を示す。

ここで、下図のようなモデル(Ⅰ)を考える。なお、応力は単独作用するものとする。

f:id:marukee:20181021161440p:plain

$$σ_{f}=E_{f}\epsilon_{1} \ , σ_{m}=E_{m}\epsilon_{1}\tag{1}$$

 ここで、\(σ_{1}\)が作用する面積をAとすると、作用する力\(P_{1}\)は

$$P_{1}=σ_{1}A=σ_{f}A_{f}+σ_{m}A_{m}\tag{2}$$

 繊維と母材を合わせた複合材に関して、

$$σ_{1}=E_{1}\epsilon_{1}\tag{3}$$

 よって、

 $$E_{1}=E_{f}\frac{A_{f}}{A}+E_{m}\frac{A_{m}}{A}\tag{4}$$

式(4)を体積含有率を用いて書き直すと、

$$E_{1}=E_{f}V_{f}+E_{m}V_{m}\tag{5}$$

次に、繊維と直交する方向の縦弾性係数を求める。繊維と母材のひずみは、\(σ_{2},E_{f},E_{m}\)を用いて次のように表される。

$$\epsilon_{f}=\frac{σ_{2}}{E_{f}} \ , \epsilon_{m}=\frac{σ_{2}}{E_{m}}\tag{6}$$

 複合材のひずみ\(\epsilon_{2}\)を考えると繊維と母材のひずみの和で表されることは明らかであるから、

$$\epsilon_{2}=V_{f}\epsilon_{f}+V_{m}\epsilon_{m}\tag{7}$$

式(7)に式(6)を代入して、

$$\epsilon_{2}=V_{f}\frac{σ_{2}}{E_{f}}+V_{m}\frac{σ_{2}}{E_{m}}\tag{8}$$

複合材の応力-ひずみ関係に式(8)を代入して、

 $$σ_{2}=E_{2}\epsilon_{2}=E_{2}\left( \frac{V_{f}σ_{2}}{E_{f}}+\frac{V_{m}σ_{2}}{E_{m}}\right) \tag{9}$$

したがって、

$$E_{2}=\frac{E_{f}E{m}}{V_{m}E_{f}+V_{f}E_{m}}\tag{10}$$

せん断弾性係数についても同様にして、サボらせてくれ...

$$G_{12}=\frac{G_{f}G_{m}}{V_{m}G_{f}+V_{f}G_{m}}\tag{11}$$

なお、

$$G_{f}=\frac{E_{f}}{2\left(1+\nu_{f}\right)} \ , G_{m}=\frac{E_{m}}{2\left(1+\nu_{m}\right)}\tag{12}$$

 以上により上記モデルの複合材の各種弾性係数が求まりました。しかしながら、実際の複合材においては規則正しく繊維が分布していない。また、繊維含有率が大きくなると繊維と樹脂の接着、摩擦などせん断による荷重伝達が無視できなくなる。そこでモデル(Ⅰ)を1軸周りに繊維と母材を90°回転させたモデル(Ⅱ)と先ほどのモデル(Ⅰ)が混在していると考え修正を行う。

 

 モデル(Ⅱ)を考えたとき各種弾性定数は以下のようになる。

$$E_{1}=E_{2}=E_{f}V_{f}+E_{m}V_{m}\tag{13}$$

$$G_{12}=G_{f}V_{f}+G_{m}V_{m}\tag{14}$$

 いま、(Ⅱ)のモデルが\(c\left(0\leqq c\leqq 1\right)\)、(Ⅰ)のモデルが\(\left( 1-c \right) \)の割合で存在していると仮定すると弾性係数は次式で表される。

$$E_{1}=E_{f}V_{f}+E_{m}V_{m}\tag{15}$$

$$E_{2}=(1-c)\frac{E_{f}E_{m}}{V_{m}E_{f}+V_{f}E_{m}}+c\left(E_{f}V_{f}+E_{m}V_{m}\right)\tag{16}$$

 $$G_{12}=(1-c)\frac{G_{f}G_{m}}{V_{m}G_{f}+V_{f}G_{m}}+c\left(G_{f}V_{f}+G_{m}V_{m}\right)\tag{17}$$

 ここで、以下にcを繊維の体積含有率の関数とみなした植村ら\(^{2)}\)の実験式を紹介する。

$$c=0.4V_{f}-0.025\tag{18}$$

 以上により、複合材の弾性係数を微視的観点から導出できた。

 感想などなど述べさせてもらうと、「Tsai先生どんだけ名前出てくるんだよ」これに尽きますね。まあ、いちばん有名な業績といえばTsai-WuやTsai-Hill破損則などでしょうか...

 今回は材料力学の基礎的な知識があれば比較的容易な内容だったと思います。引張試験の結果との比較も上げたかったのですが、データ探すのがめんどくさかったので許してください。次回の更新は未定ですが、もし強度設計に関して書くならば2-3回に分けて書くほどの分量になると思うのでしばらく投稿がないかもしれません。

いつもどおり、間違いなどがあったらコメントください(-_-)

参考文献

1)S.W. Tsai, Structural Behavior of Composite Materials, NASA CR-71 (1964)

2)植村益次, 山脇弘一, 阿部慎蔵, 井山向史, フィラメントワインディング材の剛性について, 東京大学宇宙航空研究所報告, 第4巻第3号(B)