留年ポンコツまるけーのブログ

留年ポンコツ学生の日常と航空宇宙工学

複合材積層円筒の等価剛性の導出(人力飛行機の桁設計)

みなさん、こんにちは(^ω^)

まるけーです。

先日やっと、複合材積層円筒の剛性計算を行うプログラムを完成させました。後輩からもらった桁試験の結果との整合性も確認したので、今回はその解説をのらりくらりとして行こうと思います。下手な手書きの図が出るけど許して...

注意:このブログにしたがって設計を行い事故等が生じても責任は持ちません

解説するにあたっての前提条件

 線形代数学や材料力学の基本的な知識を持っているものとして解説します。また、本来は一般化したフックの法則から導くべきところをめんどくさかったので省略してます。なお、実際に設計する際には対称バランスト積層にしましょう。(カップリングとか考えるとさっぱりわからん)

平面応力状態を仮定した一方向強化板の各種関係式

 下に示した図のように座標系を定め、平面応力状態を仮定する。

f:id:marukee:20181004211431j:plain

ひずみ-応力関係は(1)式で表される。

$$\displaystyle{\begin{Bmatrix}\epsilon_{1}\\ \epsilon_{2}\\ \gamma_{12}\\ \end{Bmatrix}=\begin{bmatrix} S_{11} & S_{12} & 0 \\\ S_{12} & S_{22} & 0 \\\ 0 & 0 & S_{66} \end{bmatrix}\begin{Bmatrix}σ_{1}\\ σ_{2}\\ τ_{12}\\ \end{Bmatrix} \tag{1}} $$

 この式から\(S_{11}\)、\(S_{12}\)、\(S_{22}\)、\(S_{66}\)は以下の式で表される。

$$S_{11}=\frac{1}{E_{1}},S_{12}=-\frac{\nu_{12}}{E_{1}}=-\frac{\nu_{21}}{E_{2}}\\ S_{22}=\frac{1}{E_{2}},S_{66}=\frac{1}{G_{12}}$$

 これを(2)式で表される、応力-ひずみ関係へと変換する。(逆行列の計算するだけ)

$$\displaystyle{\begin{Bmatrix}σ_{1}\\ σ_{2}\\ τ_{12}\\ \end{Bmatrix}=\begin{bmatrix} Q_{11} & Q_{12} & 0 \\\ Q_{12} & Q_{22} & 0 \\\ 0 & 0 & Q_{66} \end{bmatrix}\begin{Bmatrix}\epsilon_{1}\\ \epsilon_{2}\\ \gamma_{12}\\ \end{Bmatrix} \tag{2}} $$

 さきほど求めた\(S_{11}\)、\(S_{12}\)、\(S_{22}\)、\(S_{66}\)から\(\nu_{21}\)を消し、\(Q_{11}\)、\(Q_{12}\)、\(Q_{22}\)、\(Q_{66}\)を計算すると

$$Q_{11}=\frac{E_{1}^{2}}{E_{1}-\nu_{12}^{2}E_{2}},Q_{12}=\frac{\nu_{12}E_{1}E_{2}}{E_{1}-\nu_{12}^{2}E_{2}} \\ Q_{22}=\frac{E_{1}E_{2}}{E_{1}-\nu_{12}^{2}E_{2}},Q_{66}=G_{12}$$

ここで一段落です。ここからは座標変換とかの話になるんですが、材力の教科書とかネットに導出は書いてあるんでいろいろ省略します。

応力、ひずみの座標変換

 x-y座標を反時計回りにθ回転させた1-2座標の応力関係を行列式で表すと以下のようになります。

$$\displaystyle{\begin{Bmatrix}σ_{x}\\ σ_{y}\\ τ_{xy}\\ \end{Bmatrix}=\begin{bmatrix} cos^{2}\theta & sin^{2}\theta & -2sin\theta cos\theta \\\ sin^{2}\theta & cos^{2}\theta & 2sin\theta cos\theta \\\ sin\theta cos\theta & -sin\theta cos\theta & cos^{2}\theta -sin^{2}\theta\end{bmatrix}\begin{Bmatrix}σ_{1}\\ σ_{2}\\ τ_{12}\\ \end{Bmatrix} } $$

ひずみについても同様に

$$\displaystyle{\begin{Bmatrix}\epsilon_{x}\\ \epsilon_{y}\\ \frac{\gamma_{xy}}{2}\\ \end{Bmatrix}=\begin{bmatrix} cos^{2}\theta & sin^{2}\theta & -2sin\theta cos\theta \\\ sin^{2}\theta & cos^{2}\theta & 2sin\theta cos\theta \\\ sin\theta cos\theta & -sin\theta cos\theta & cos^{2}\theta -sin^{2}\theta\end{bmatrix}\begin{Bmatrix}\epsilon_{1}\\ \epsilon_{2}\\ \frac{\gamma_{12}}{2}\\ \end{Bmatrix} } $$

 こんな長ったらしい変換行列書くの面倒なのとこのあとの都合により逆行列にして以下のように定義します。

$$\displaystyle{\left[T\right]=\begin{bmatrix} cos^{2}\theta & sin^{2}\theta & 2sin\theta cos\theta \\\ sin^{2}\theta & cos^{2}\theta & -2sin\theta cos\theta \\\ -sin\theta cos\theta & sin\theta cos\theta & cos^{2}\theta -sin^{2}\theta\end{bmatrix}}$$

 更にひずみの変換のために以下の行列[R]を新たに導入します。

$$\displaystyle{[R]=\begin{bmatrix} 1&0&0\\ 0&1&0\\ 0&0&2\end{bmatrix}}$$

$$\displaystyle{\begin{Bmatrix}\epsilon_{1}\\ \epsilon_{2}\\ \gamma_{12}\\ \end{Bmatrix}=[R]\begin{Bmatrix}\epsilon_{x}\\ \epsilon_{y}\\ \frac{\gamma_{xy}}{2}\\ \end{Bmatrix}}$$

 これで等価剛性導出に必要な道具はすべて揃いました。x-y座標での応力ひずみ関係を1-2座標で求められた物性値で表してみましょう。

$$\displaystyle{\begin{Bmatrix}σ_{x}\\ σ_{y}\\ τ_{xy}\\ \end{Bmatrix}=[T]^{-1}[Q][R][T][R]^{-1}\begin{Bmatrix}\epsilon_{x}\\ \epsilon_{y}\\ \frac{\gamma_{xy}}{2}\\ \end{Bmatrix}}$$

ここで、\([R][T][R]^{-1}\)は\([T]^{-T}\)(逆行列の転置)となるので\([\overline{Q}]=[T]^{-1}[Q][T]^{-T}\)とすると

$$\displaystyle{\begin{Bmatrix}σ_{x}\\ σ_{y}\\ τ_{xy}\\ \end{Bmatrix}=\begin{bmatrix} \overline{Q}_{11} & \overline{Q}_{12} & \overline{Q}_{16} \\ \overline{Q}_{12} & \overline{Q}_{22} & \overline{Q}_{26} \\ \overline{Q}_{16} & \overline{Q}_{26} & \overline{Q}_{66} \end{bmatrix}\begin{Bmatrix}\epsilon_{x}\\ \epsilon_{y}\\ \frac{\gamma_{xy}}{2}\\ \end{Bmatrix}}$$

$$\overline{Q}_{11}=Q_{11}cos^{4}\theta +2(Q_{12}+2Q_{66})sin^{2}\theta cos^{2}\theta +Q_{22}sin^{4}\theta\\ \overline{Q}_{12}=(Q_{11}+Q_{22}-4Q_{66})sin^{2}\theta cos^{2}\theta +Q_{12}(sin^{4}\theta +cos^{4}\theta) \\ \overline{Q}_{22}=Q_{11}sin^{4}\theta +2(Q_{12}+2Q_{66})sin^{2}\theta cos^{2}\theta +Q_{22}cos^{4}\theta \\ \overline{Q}_{16}=(Q_{11}-Q_{12}-2Q_{66})sin\theta cos^{3}\theta +(Q_{12}-Q_{22}+2Q_{66})sin^{3}\theta cos\theta \\ \overline{Q}_{26}=(Q_{11}-Q_{12}-2Q_{66})sin^{3}\theta cos\theta +(Q_{12}-Q_{22}+2Q_{66})sin\theta cos^{3}\theta \\ \overline{Q}_{66}=(Q_{11}+Q_{22}-2Q_{12}-2Q_{66})sin^{2}\theta cos^{2}\theta +Q_{66}(sin^{4}\theta +cos^{4}\theta) $$

 \([\overline{Q}]\)の逆行列を\([\overline{S}]\)とすると等価剛性E(円筒の工学的定数)が以下のように求まる

$$E=\frac{1}{\overline{S}_{11}}$$

これが求まればあとは材料力学の簡単な話で、各層の曲げ剛性を足してあげると積層円筒の曲げ剛性が求まる。この方法で桁試験の結果と比較したグラフを以下に示す。

f:id:marukee:20181010200357p:plain

円筒の断面変形を考慮していないため荷重が大きくなればなるほど、計算値との差は広がっていく。しかしながら1.0倍荷重で約0.1mの差は十分な精度ではないでしょうか...

その他

繊維に沿う方向を0°(x方向)として、\(E_{\theta}\)をその角度におけるヤング率とする。

引張試験において\(E_{0}\)および\(E_{90}\)は容易に測定することができる。しかしながら、\(E_{45}\)、せん断弾性定数の測定は単純にはできない(めんどくさい

 ここで便利な式が登場、詳しくは参考文献(2)を見てください。

$$\frac{1}{G_{xy}}=\frac{4}{E_{45}}-\left(\frac{1}{E_{x}}+\frac{1}{E_{y}}-\frac{2\nu_{xy}}{E_{x}}\right)$$

$$E_{45}=\frac{2}{5}E_{x}$$

 せん断弾性係数についての式は今回解説した式を使えば導出できます。ただ、45°方向の縦弾性係数は実験式みたいなので鵜呑みにするのは危険かもしれません...

繊維方向ポアソン比はいろんな資料を読む限り0.27~0.3くらいです。

今回は桁設計の変位解析に必須な事柄を説明しました。強度設計についてもいつかは書こうと思いますが、暫く先になるかもしれません。

いつもどおり、間違いの指摘や疑問等があればコメントよろしく(-_-)

参考文献

 (1)Robert M. Jones, Mechanics Of Composite Materials (Materials Science & Engineering Series) 2nd Edition, CRC Press

少し古いけど今でも十分勉強になる本、Kindle版が出てるので洋書でも入手はしやすい。今回は殆どの部分でこの本を参考にさせていただいた。

(2)座古勝, 辻上哲也, 高野直樹, 植村益次, 市川昌弘, 平田俊治, 複合材料用三次元構造解析支援システムの構築, 日本機械学会論文集(A編), Vol.62, No.598 (1996)

 スキャンがテキトーで文字が薄くて読みづらい...

(3)小木曽望, 嘉藤伸一, 室津義定, 繊維強化複合材料積層パイプの片持ち梁の信頼性解析, 日本機械学会論文集(A編), Vol.66, No.650 (2000)

ここで紹介した方法とほぼ同じ手法であるTsai-Paganoの材料不変量の式を用いている。破壊評価もしているので参考になるかも。