留年ポンコツまるけーのブログ

留年ポンコツ学生の日常と航空宇宙工学

パネル法の簡単な解説

こんにちは、まるけーです。

今回はパネル法の簡単な解説をしたいと思います。理論的な部分に深く立ち入ろうとすると、数学的に高度な話になるのでできるだけ数式を出さないように簡単な解説にしたいと思います。具体的な理論は参考文献を読んでください。

パネル法とは?

 表題には「パネル法」と一概にまとめていますが、実際には離散渦法、分布渦法や湧出法など細かく分けると多くのものがあります。ここではXFOILで用いられている分布渦法とプログラムが簡単な離散渦法の解説をしたいと思います。なお、実際にはXFOILは粘性影響を考慮するために渦だけでなく翼表面と後流に一様湧出を分布させています。

 パネル法は3次元物体に対しても適用することができます。必要計算量が有限体積法よりも少なくプロペラの形状最適化設計\(^{1)}\)にも用いられます。下図は人力飛行機のプロペラの圧力分布を3次元パネル法により求めたものです。

f:id:marukee:20190119205853p:plain

パネル法の理論

 簡単に言えば、翼表面上に速度を誘起する渦を配置し、境界条件を満足するようにその渦の強さを計算することにより流れを求めるのがパネル法である。この説明だけでは皆さん頭の中に「?」が浮かんでいると思うので、分かりづらい渦と境界条件の説明をしたいと思います。

 まず境界条件ですが、「パネル表面で流れはパネルと直交する速度成分を持たない」というものと「翼後縁では、翼上面からと下面からの流れはスムーズに合流する」この2つです。言われてみればわかると思いますが、仮にパネル表面で直交する速度成分があるならば、パネル上から空気が湧き出しているか吸い込まれていることになってしまいます。2つ目の境界条件はKuttaの条件とも言われます。

 次に、渦についての説明です。専門用語で表すと渦糸と呼ばれるもので、循環Γがある一点に圧縮されて存在しているブラックホールみたいなものです。この渦糸によって誘起される速度は参照点からの距離の二乗に反比例します。分布渦法ではこの渦糸が渦層に変わります。渦層は渦糸が「点」だったのに対して「線」になったものと考えてください。分布渦法では計算する対象が「線」になったので積分方程式となります。

 ここで少し数学的な話になります。翼上に渦糸をn個分布させ、その中点を参照点(境界条件を計算する点)とすると平板翼が解析対象だと参照点の数はn-1個となります。ここにkuttaの条件を加えると、未知数Γの数と連立方程式の数が一致して容易に解くことができます。しかしながら、厚みのある翼では参照点の数がn個となり、過剰条件の連立方程式となる。この場合、方程式を解くことはできないため最小二乗法を用いてΓの近似解を求めることになります。

連立方程式を行列形式で表すと

$$A\boldsymbol{\Gamma}=B$$

近似解は以下の式がなるべく0に近づけばよい

$$A\boldsymbol{\Gamma}-B$$

 最小二乗法の行列表記は\(A^{T}A\)は正則であるとして、目的関数の二乗\(\vert A\boldsymbol{\Gamma}-B \vert^{2}\)を整理し、微分することにより求まる。結果だけ書くと、

$$\boldsymbol{\Gamma}=(A^{T}A)^{-1}A^{T}B$$

 を計算するとΓが求まる。途中で省略した計算に関してはGoogleで「正規方程式」と検索するとわかりやすい解説がたくさん出てきます。

 XFOILやXFLRで用いられているパネル法は粘性影響を考慮していたりするのでもう少し高度です。しかしながら基本的な部分においてはここで説明したとおりのことが計算されています。つまり、物体表面とその後流についてしか計算しておらず、基本的には非圧縮、非粘性、渦無し(乱流状態は考えていない)という大きな制約のもと計算されています。なので、粘性影響が大きくなる低レイノルズ数域や流れが剥離する失速域で計算される値はあまり信用出来ないので注意しましょう。

 暇があったら参考文献をもとにプログラムを組んでみると楽しいです。分布渦法をCで組んだらファイル入出力関係のプログラムと合わせて400行以下で書けたので、意外と簡単です。

参考文献

1)小木曽望, 内海智仁, 室津義定, 低レイノルズ数域で作動するプロペラブレードの形状最適化, 日本航空宇宙学会論文集 ,vol50 ,No.586, pp.458-465, (2002)

2)増淵寿, 金田博樹, 表計算ソフトを利用した簡易数値風洞の作成-離散渦法による厚みのある翼まわりの流れ解析-, 小山工業高等専門学校研究紀要, 第45号(2012)

3)Drela, M.: XFOIL: An Analysis and Design System for Low Reynolds Number Airfoils, Low Reynolds Number Aerodynamics, Spring-Verlag, New York, 1989, pp. 1–12

4)水野明哲, 流れの数値解析入門, 朝倉書店

5)Joseph Katz, Allen Plotkin, Low-Speed Aerodynamics(Secod Edition), CAMBRIDGE UNIVERSITY PEWSS.

 パネル法のすべてを網羅的に書いてあるのが「Low-Speed Aerodynamics」です。これさえ読めばパネル法の殆どがわかるはず。しかし英語なので読むには一苦労、ここでおすすめの本が「流れの数値解析入門」もう中古でしか手に入らないようだが価格はそこまで高く無い。入門と書いてあるのはウソではなく学部2年生くらいの知識があれば簡単に読めます。

 次回の更新は2月中旬を予定してます。内容は未定です(-_-)